植物研究助成

植物研究助成 33-16

茅葺きの持続性を脅かす環境変動による強度低下原因となる重金属障害のEGCG による毒性緩和

代表研究者 筑波大学 生命環境系
准教授 岩井 宏暁

背景

 地球温暖化に伴うゲリラ豪雨が原因で引き起こる土壌の酸性化により、毒性重金属が溶出する。溶出した金属イオンは植物の成長を阻害する。土壌酸性化による毒性金属イオンにより細胞壁成分が変化することにより、イネの根と葉の強度が弱くなるが、カテキンの一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)により緩和される。このEGCGによる毒性金属緩和方法について、特許申請(特願2023-11254)した。カテキンという身近な天然物であるために、土壌処理に対して、一般市民からの抵抗感が少ない。実際の現場である茅場でも、野生のイネ科植物である茅の強度が酸性雨により、近年折れやすい性質を示すようになり、建築材としての性質が低下してきている。この原因として重金属イオンと細胞壁成分との関連性があるのではと考えられている。

目的

 野生のイネ科植物である茅を用いて、近年、茅が折れやすくなる質の低下に、茅に対する力学試験系の確立に成功し、土壌の特性によって物理的強度に違いがあるかを明らかとするとともに、EGCG投与により茅場の質の低下を防げるかについて、生理学的、生態学的なアプローチを行い、茅葺きの持続性を脅かす環境変動による茅の質低下原因の解明を行う。

方法

 (1)ペクチン改変イネと野生イネ(茅)を用いた毒性金属緩和動態の観察(2)野生イネ(茅)を用いた分泌性多糖類による金属排除過程の可視化(3)特性変化した茅の解析:1)日本各地および高エネルギー加速器研究所内の茅場の力学的強度が変化した茅(対照とEGCG処理)とその土壌のサンプリングを行う。2)それらの土壌の重金属組成を解析、3)茅の強度測定と、茎の細胞壁化学組成分析を行う。

期待される成果

 環境変動による茅の質低下原因の解明とEGCGによる毒性緩和による保全の研究を進めることで、各茅場の土壌をどのように改良することで茅場の質の低下を防げるかについて、生理学的、生態学的なアプローチを行う。このことは、学術的な成果が見込まれるだけでなく、茅場の持続性の維持に貢献し、SDGsの目標の達成にも大きく貢献していく効果があると考えている。