植物研究助成

植物研究助成 33-17

植物-ウイルス-昆虫の相互作用がもたらす植物集団への影響評価

代表研究者 新潟大学 大学院自然科学系
准教授 湊 菜未

背景

 近年農作物に発生する新規ウイルス病の多くは野草に潜在感染していたウイルスが宿主を鞍替えし作物へと感染する“spillover”によるものである。植物に感染して病気を引き起こすウイルスの多くは昆虫によって伝搬され、昆虫伝染性ウイルスを中心とした「植物?ウイルス?媒介昆虫」の相互関係において、媒介昆虫は唯一能動的に移動・拡散する能力を持つ。したがって昆虫伝染性ウイルスは他種植物への宿主転換が盛んであると考えられるが、ウイルスによる媒介昆虫の寄主選好性変化がspilloverに及ぼす影響については知見がほとんど得られていない。

目的

 本研究の目的は、過年度課題で見出した昆虫伝染性ウイルスによる昆虫の寄主選択行動変化を足掛かりとして、1)ウイルス感染による作物-野草群落間の昆虫移動への影響評価、2)野草から作物へのウイルス流入頻度の解析、3)作物から野草への2種ウイルスのspilloverと適応度の評価の3点により「植物-ウイルス-昆虫」の相互作用がもたらす植物集団内のウイルス感染拡大への影響を明らかにすることである。

方法

 本研究では、ムギ類を侵す2種のウイルス、宿主植物としてコムギ、および媒介昆虫・非媒介昆虫を用いて3項目について解析を実施する。ウイルス感染が生態系中の昆虫移動に与える影響を調べるほか、作物における対象ウイルスの感染が新規他種ウイルスの流入頻度に及ぼす影響の解析を行う。さらに、感染作物個体群から周辺イネ科野草群落への媒介昆虫の移動・摂食頻度を調査し、ウイルスの流出頻度を検証する。

期待される成果

 本研究はウイルスの媒介昆虫操作戦略が周囲の生態系、特に植物集団内のウイルス宿主の転換に与える影響に迫るものである。これまでにウイルスが植物側・昆虫側の両方を変化させて昆虫の寄主選択を操作することが示されており、ウイルスによる植物の適応度の変化のみならず媒介昆虫の行動変化が野外生態系において周辺野草を介したウイルスspilloverを助長している可能性が考えられることから、植物生態系の保全に向けて虫媒性病害に対する統合的防除技術構築の足掛かりとなることが期待される。