植物研究助成

植物研究助成 33-19

海藻種の生活環・生育期間と環境変動への適応能の関連性に関する研究

代表研究者 東京海洋大学 学術研究院
教授 神谷 充伸

背景

 黒潮大蛇行は、黒潮と本州南岸の間に大きな冷水渦が居座ることによって、黒潮が迂回して流れる現象であり、2017年8月より始まって現在も継続している。黒潮大蛇行が起こると、関東・東海沿岸では例年より水温が高くなり、海洋生態系や漁業への影響が懸念されている。環境省のモニタリング調査により、2018年から下田周辺における海中林の衰退・消失が進行していることが分かっており、テングサやヒジキなどの有用海藻もここ数年不漁が続いている。しかしながら、黒潮大蛇行中も生物量の大きな変化が見られない海藻種もあり、環境変動の影響が種によって異なっている可能性がある。海藻は生活環(同形世代交代、異形世代交代、世代交代なし)や生育期間(1年生、多年生)が分類群によって異なっており、それが環境適応能と関係している可能性がある。

目的

 黒潮大蛇行の影響が異なる3地点から、生活環や生育期間が異なる海藻種を季節毎に採集し、遺伝的多様度を比較することにより、海藻種の生活環・生育期間と環境変動への適応能の関連性を評価する。

方法

 黒潮大蛇行の影響が異なる3地点(静岡県下田市、千葉県館山市、千葉県鴨川市)において生活環や生育期間が異なる10種の海藻を30個体ずつ春季、夏季、秋季に採集する。アオサ藻ではリボソームITS領域、褐藻ではnad3遺伝子−16sリボソームRNA遺伝子間の領域、紅藻ではsecY遺伝子−リボソームタンパク質rrs遺伝子間の領域を比較し、地点間および季節間で遺伝的多様度や塩基多様度を比較することにより、黒潮大蛇行が集団構造に与える影響を評価する。

期待される成果

 集団構造を経時的に調査することは、環境変動が海藻種の生存や繁殖に与える影響を把握する上で重要である。生活環、生育期間、生育環境が異なる海藻種で集団構造の変化を比較することにより、環境変動への適応に有効な生物特性を特定できると期待され、これらの知見は海藻の環境適応戦略を理解する上で大いに役立つと考えられる。一般的に、環境変動による集団サイズの縮小は、遺伝的多様度の低下をもたらすと考えられているが、沿岸生態系ではそのような集団遺伝学的な知見は限られており、本研究は沿岸生態学分野に大きなインパクトを与えると期待される。