植物研究助成

植物研究助成 33-20

樹木による炭素蓄積量とその年変動を定量評価するための指標検討

代表研究者 京都大学 生存圏研究所
研究員 田邊 智子

背景

 人為由来で放出されたCO2は大気中に蓄積され、気候変動を介して世界中の生態系のバランスを改変し続けている。生態系の保全や持続可能な利用を提案するためには、現在の生態系機能を確からしく推定することが重要となる。とりわけ森林は世界の主要な炭素吸収源であるため、炭素蓄積量の定量評価と、その気候応答を明らかにすることは、全球的な炭素循環予測にかかせない。
 樹木に取り込まれた炭素は、枝や幹といった木部の生産に使われると長期間樹体内に蓄積される。木部生産量の年変動を類推する手段として、計測が容易な高さ1.3m位置(以下、胸高)の幹の年輪幅を指標とした評価が広く行われてきた。しかし年輪幅の年変動は、個体内の位置により異なることが分かりつつある。つまり、胸高のようなある一つの高さの年輪幅を指標とした手法では、木部生産量の年変動を確からしく評価できていない可能性がある。

目的

 木部生産量の個体内差を定量化したうえで、個体内差を生むメカニズムを解明することを目的として以下3つの問いの解明に取り組む。[研究I]個体内の位置による差に定量的関係はあるか?[研究II]木部生産の速度や期間に個体内差はあるか?[研究III]生産に使う炭素の吸収時期に個体内差はあるか?

方法

 京都府立大学鷹峰演習林に生育するヒノキの成木(樹高約10m)を対象とする。[研究I]幹基部から枝の先端までの様々な位置の木部生産量を計測し、これらの定量的関係を探る。[研究II]木部生産量に関わる重要な特徴である、木部細胞生産の速度、時期、期間の長さが、個体内の位置に応じてどのように変化するかを解明。[研究III]炭素安定同位体をトレーサーとして使い、木部生産に使われた炭素がいつの光合成で吸収されたものかを追跡。

期待される成果

 個体内の様々な位置の木部生産量における定量的関係が分かれば(研究I)、樹木生産量の年変動推定において、個体内のどこの生産量に着目したら良いかといった新しい指標の提案に繋がる。個体内の各位置の生産期間(研究II)や生産量に影響する光合成時期(研究III)が分かれば、その時期の気温や日射量等の環境要因が、各生産量に大きく関与していることが示唆される。樹木生産量の気候応答解析の際に着目すべき期間を、根拠を持って提示できるようになる。