復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-01

研 究 題 目
高塩化ナトリウム条件下でのキノアのセシウム吸収能の促進について
所属機関・役職
日本大学 生物資源科学部 准教授
代 表 研 究 者
磯部 勝孝

【研究目的】

南米原産のキノアは土壌の塩化ナトリウム濃度が高い場合、カリウムを特異的に吸収して体内のNa/K比が高くならないようにして耐塩性を高めていることが明らかになっている。カリウムとセシウムは吸収機構がほぼ同じであることから、本研究ではカリウムを施用せずナトリウム含量を高くすればセシウムを吸収して土壌中からセシウムを除去することができないか明らかにする。

【研究方法】

キノアが他の作物に比べて高セシウム濃度下でも出芽並びに生育できることをシャーレによる発芽試験とポット試験で明らかにする。そして、ポット試験でカリウム濃度を低くし、塩化ナトリウムを施用した時にキノアがセシウムを吸収するか明らかにする。さらに、セシウム吸収能の高いキノア品種の選定、培地内の塩化ナトリウム濃度等について検討する。上記と同時並行で被災地では現地実証試験を行う。

【研究成果】

キノア及び従来からセシウム吸収能の高いと言われているソバ、ヒマワリ、アマランサスを用いてセシウム溶液での発芽試験を行った。その結果、キノア以外の作物は塩化セシウム2%溶液で発芽率が低下したが、キノアは2%溶液でも発芽率は低下しなかった。また、キノアは他の作物が発芽できなかった塩化セシウム6%溶液でも発芽することができ、発芽に対して高いセシウム耐性を有することが明らかになった。発芽に対するキノアのセシウム耐性は品種間差があり、供試した中ではAmarilla de MaranganiやCICA-127が高いセシウム耐性を有することが明らかになった。土耕法によるポット試験ではキノアはカリウム肥料を施用しないで、できるだけ密植にして塩化ナトリウムを土100g当たり0.75g施用すると生育、セシウム吸収量ともに著しく増大した。また、開花盛期以降は地上部におけるセシウム吸収量は増大しなかったことから、キノアに土壌のセシウムを吸収させるにはカリウム肥料を施用しないで、できるだけ密植にして開花盛期に刈り取ることで効率的にできると考えられた。これらの結果を基に福島県飯館村の農家圃場で塩化ナトリウムを施用して現地試験を行った。その結果、塩化ナトリウムの施用によって、キノアの地上部生体重は大きくなったが、土壌からのセシウム吸収量は増大することはなかった。この原因は、農家圃場では長年の作物栽培によって土壌中のカリウム含有量が高かったことと、放射性セシウムが土壌粒子と結合して植物が直接吸収できない形態になってしまっていることが原因と考えられた。

【まとめ】

キノアはこれまでセシウム吸収能が高いと言われてきた様々な作物よりセシウム耐性が高く、塩化セシウムを用いたポット試験では塩化ナトリウムを施用することで、キノアの生育と土壌からのセシウム吸収量を増大させることができることが明らかになった。しかし、福島県での現地試験では塩化ナトリウムを施用してキノアの生育を増大させることはできたが、セシウム吸収量を増大させることはできなかった。これは、土壌のカリウム量の高さやセシウムの固定化が障害になっていると考えられた。