復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-03

研 究 題 目
緩効性窒素肥料の深層施肥によるダイズの放射性セシウム吸収抑制技術の開発
所属機関・役職
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
東北農業研究センター 研究員
代 表 研 究 者
本島 彩香

【研究目的】

原発事故による農地の放射性物質汚染に伴い、大豆の基準値超過が懸念されている。大豆は増収のために開花期に窒素肥料を追肥するが、これにより土壌中のアンモニア態窒素が増加し、粘土に固定された137Csが可給態となり、大豆による137Cs吸収を促進させる恐れがある。本研究では、緩効性窒素肥料及び大豆の増収技術である深層施肥によって肥料を緩慢に効かせることにより、土壌からの137Csの溶出を抑制しつつ窒素を効率的に作物に供給し、高収量を狙うことを目的とした。

【研究方法】

福島県内の農家圃場で緩効性窒素肥料(石灰窒素、被覆尿素;リニア型、シグモイド型)を深層施肥した。対照として尿素深層施肥区、緩効性窒素肥料および尿素全層施肥区、無窒素区、慣行区を設けた。窒素肥料は深層施肥区と全層施肥区は基肥のみ施肥し、無窒素区は窒素のみ無施肥、慣行区は硫安を基肥と追肥の2回に分けて全層施肥した。土壌は施肥前、開花期、収穫期に各試験区から30 cm採取し、深度別(0-15, 15-30 cm)に分け、137Cs濃度、交換性カリ含量、交換性137Cs濃度、アンモニア態窒素濃度を測定した。植物体は成熟期のみ採取し、部位別(葉身・葉柄・茎・莢・子実・根・根粒)に解体し、137Cs濃度、カリウム含量を測定した。その他、収量調査を行った。

【研究成果】

土壌中137Cs濃度は1年を通して0-15 cmで約1,000 Bq kg-1、15-30 cmで約550 Bq kg-1であった。子実中137Cs濃度は平均54±16 Bq kg-1、移行係数は0.044〜0.059であり、処理間の有意差は見られなかった。結論として、緩効性窒素肥料の深層施肥による大豆の137Cs吸収抑制効果は得られなかった。理由として第一に、土壌表層中の交換性カリが年間平均9.3 mg K2O/100 gであり、吸収抑制対策の指標である25 mg K2O/100 gを大幅に下回ったため、大豆がカリ欠乏になり、子実中の137Cs濃度が全体的に高止まりしたものと考えられた。第二に、窒素施肥による増収効果が得られなかったことによる影響が考えられた。即ち、全層施肥、深層施肥いずれも十分な初期生育が確保されず、また大豆が結実のための窒素を多量に必要とする開花期以降の土壌中可給態窒素を十分に維持できなかった可能性がある。これは、圃場の水はけの悪さにより可給態窒素が流出、もしくは脱窒により失われたものと思われる。

【まとめ】

これまでの研究から、根からのセシウムの吸収はカリウムの吸収と同様の動きを示すことが知られているが、本研究では根や根粒に含まれるカリウム含量はそれぞれ165, 200 mg-K/100 gとほぼ一定の値を示し、137Cs濃度に関しては一貫した傾向がなかった。従って、根系−地上部におけるカリウムと137Csの動態については、従来の知見とは異なり、根−地上部の間にカリウムと137Csを判別し、選択して輸送する仕組みがあるのではないかと思われた。また、ダイズ根粒中の137Cs濃度は約225 Bq kg-1と他の部位よりも有意に高かったことから、根粒には137Csを蓄積する役割があるのかもしれない。未だ謎の多いダイズの放射性セシウム吸収のメカニズム解明には、根粒や根が鍵を握っている可能性が高いと思われることから、この点について今後更なる解析が必要と考えられる。